インバウンド観光事業に学校教育をからめる視点は地域活性化への起爆剤となりうる~「まちんなか留学」大空町【道新】

今日取り上げるのは、本日(2019/10/18)付の北海道新聞(オホーツク版)の小さな記事。日本メディアは「札幌でオリンピック」が、海外メディアは「英国EU離脱条件で合意」(いわゆるブレグジット問題)がトップをかざる中、私は地方新聞の地方版の小さな記事を取り上げる(笑)。

ただ英国EU離脱問題は、日本メディアではほとんどとりあげられないし、取り上げ方もかなりステレオタイプな論調なので、近いうちに書こうとは思っている。

「まちんなか留学」なんとキャッチーな名称だろう。

今日のお話、結論を先取りすると、

「まちんなか留学」企画は、インバウンド観光産業をからめて学校教育と地域を巻き込む仕掛けで展開すると、町を元気にする起爆剤として機能するに違いない(と私は考える)

大空町「まちんなか留学」企画の概要

さてこの企画、オホーツク管内の大空町で、2016年から毎年(?)行われている日帰り英語キャンプ。主催が町教委というのが面白い。

2019/10/18 網走・美幌版 北海道新聞

「英語しか使わない」「みんなで楽しむ」

そんなルールとコンセプトで、北見工大の留学生や管内のALT、英語がしゃべれる地元ボランティアといった人たちがスタッフとして入り、今年は、近隣の町から17名の小中学生の参加があったそうだ。

ネットで調べてみると、この「まちんなか留学」企画は大空町の教育支援事業のひとつ(以下はHPリンク)。

http://ozorabito.jp/%E6%95%99%E8%82%B2.html より

教育委員会の主催だけあって、ALTや地元の学校への周知はままうまくいっているのだろう。 関係者の並々ならぬ努力には敬意を表したい。

その一方で、「もったいないな」とも思う。

インバウンドに着目した教育と地域の積極的な連携の可能性

インバウンドの観光需要が急速に高まる中、近隣エリアの商店街や地元企業との連携をうまく作れるポテンシャルを持っている。たとえば、

  • インバウンド向けの地元飲食店メニュー製作(メニュー翻訳)
  • 地域のローカルマップを英語でつくろうネタ(地域の魅力再発見にもつながる)
  • 動画等で地元の観光スポットを英語で紹介するネタ・・・などなど

こういったプロジェクトにうまく教育活動(英語や異文化体験)をからめることで、観光事業への人的リソース不足を大きく改善できる。教育という点でも、単なる知識だけではなく、「実践を通しての学び」の場を生み出す貴重な場となる。

行政サイドでは、観光課あたりに出てきていただき、商工会議所の力も借りて、地域活性化のコンテンツを仕込む。

そう考えると「まちんなか留学」は、相応の価値と魅力を兼ね備えた起爆剤になりうる。

たとえば、「外人なんて無理。英語わかんねえし、面倒くさい」外国人に対しそんな苦手意識を持つ地元飲食店さんを招く。外国人との交流を通して「これがあればok」とか「英語がぶっちゃけしゃべれなくても問題ない」とか、そういった話が聞けるはず。日本語がしゃべれないインバウンド目線の話でも、「どういったサービスがあればうれしいのか」とか、「どんな料理が好き?」「地元でいいなと思う場所ってどこ?」そんな話もできちゃうはずだ。ここで出てきたものをまとめて、生徒たちが取り組めるよう学習教材化する。

こうした戦略は、地域を盛り上げたいと考えている地域住民や行政にとっても大きなメリットになる。単に「小中高生に異文化を体験してもらおう」という次元から、地域にお金が落ちる仕掛けづくりというマネタイズの次元へ

どんなボランタリーな活動も、お金がまわらないと継続が難しい。せっかくの素晴らしい取り組みも、中心的な人物がいなくなると自然消滅することが多々ある。スタート当初は補助金がとれ、まわしていくことができたが、補助金が打ち切られたとたん、中断してしまうとか。枚挙にいとまがないほどその種の事例を知っている私としては、「素晴らしい取り組みだったのに」と残念でならない。

だから、もともとはボランタリーなネタだったとしても、それが「どうやったら具体的に地域のためになるのか?」「地域にお金が落ちるのか?」という視点で分析することは大事だ。今回のケースは、学校教育にとっても、社会とのつながりの中で、地元のことを学びつつ、実践的に学べる貴重な機会となるのだからやらない手はない。

「いやいや、生徒には難しすぎてそんなことできないでしょ」と思われる方もいるかもしれないので、参考までに学校の生徒がインバウンド向けの観光動画を製作した事例として二つあげておこう。

事例1.高砂小6年生が室蘭PR動画制作、外国人客向けに配信【室蘭】(2019/02/25 室蘭民報より)

これは室蘭の高砂小学校の事例。

事例2.豊浦中学校(2019/10/10 室蘭・胆振版、北海道新聞より)

そうは言っても「うちの生徒には無理」は「生徒の可能性をつぶしてる」と思う件

でもこうした事例を紹介しても、「そこは優秀な生徒さんがいるかなじゃないかな」「うちの生徒には無理無理」という教員の言葉も聞こえてきそうだ。

教育に少なからず携わっている私が、常々思うことがある。それは「生徒や学生の可能性を不当に過小評価しちゃだめだ」ということ。「うちの生徒にはそんなの無理だよ」という言葉を教員が口にする度に悲しくなる。教育の可能性を自分でこわしちゃってるんじゃないかな、と。

教育者としては、「いきなりは無理かもだけど、どうやったらできるかな?」と、生徒目線で一緒に考えるという姿勢が必要なんじゃないかなと思う。それもまた大切な教育過程。「壁にぶつかったときに、どうやって課題解決していくか」というとてつもなく重要でやりがいのある教育の機会。

「皆でがんばれる」はとんでもない地域の財産

「やらねば」「やりたい」と思っていても、人材不足・資金不足という大きな壁にぶつかるのは当然だ。だから、みんなで「できそうなこと」を持ち寄るべきだ。そうしてみんなで作り上げるというプロセス自体が、活動の認知度を高めてくれる。でもそれ以上に、仮にプロジェクトがうまくいかなかったとしても、「共に」何かに取り組むという経験は連帯感を育む。だから、失敗しても「だったら、こうしてみたら?」と次につながる。この連帯感は、町の活性化に直結する。

地域共生を前提に、しっかりマネタイズできる仕掛けを既存リソースをうまくつないで作っていくことが地域活性化への堅実な近道だ。

この「まちんなか留学」企画はインバウンド観光産業へと展開する素地はすでにできあがっているので、うまく活用しない手はない。

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